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【原著論文】J波による肥大型心筋症の心イベントの発症予測(循環器グループ:津田豊暢助教)

2017.07.28 | Publications |

J Waves for Predicting Cardiac6386 Events in Hypertrophic Cardiomyopathy

Tsuda T, Hayashi K, Konno T, Sakata K, Fujita T, Hodatsu A, Nagata Y, Teramoto R, Nomura A, Tanaka Y, Furusho H, Takamura M, Kawashiri MA, Fujino N, Yamagishi M

JACC: Clinical Electrophysiology, June 2017 (in press) doi

 

AbstractS2405500X

Objectives: This study sought to investigate whether the presence of J waves was associated with cardiac events in patients with hypertrophic cardiomyopathy (HCM).
Background: It has been uncertain whether the presence of J waves predicts life-threatening cardiac events in patients with HCM.
Methods: This study evaluated consecutive 338 patients with HCM (207 men; 61 ± 17 years old). A J-wave was defined as J-point elevation >0.1 mV in at least 2 contiguous inferior and/or lateral leads. Cardiac events were defined as sudden cardiac death, ventricular fibrillation or sustained ventricular tachycardia, or appropriate implantable cardiac defibrillator therapy. The study also investigated whether adding the J-wave in a conventional risk model improved a prediction of cardiac events.
Results: J waves were seen in 46 (13.6%) patients at registration. Cardiac events occurred in 31 patients (9.2%) during median follow-up of 4.9 years (interquartile range: 2.6 to 7.1 years). In a Cox proportional hazards model, the presence of J waves was significantly associated with cardiac events (adjusted hazard ratio: 4.01; 95% confidence interval [CI]: 1.78 to 9.05; p = 0.001). Compared with the conventional risk model, the model using J waves in addition to conventional risks better predicted cardiac events (net reclassification improvement, 0.55; 95% CI: 0.20 to 0.90; p = 0.002).
Conclusions: The presence of J waves was significantly associated with cardiac events in HCM. Adding J waves to conventional cardiac risk factors improved prediction of cardiac events. Further confirmatory studies are needed before considering J-point elevation as a marker of risk for use in making management decisions regarding risk in patients with HCM.

本論文の背景
 “J波症候群”は1950年代にOsbornら(Osborn JJ et al. Am J Physiol 1953)によって低体温症例の12誘導心電図にて認めるJ点(QRS終末とST部位の境界となる変曲点)の基線からの上昇として報告されましたが長らくその病的意義は不明でした。しかし2008年にHaïssaguerreら(Haïssaguerre M et al. N Eng J Med 2008 doi)によって特発性心室細動を発症した症例にJ点上昇所見を心電図にて認めている例が多いことが初めて報告され、致死性不整脈発症との関連について再度見直されてきました。特に致死性心室性不整脈や病態の予後にまで関連するという報告がこれまで多数なされていますが肥大型心筋症におけるその心電図所見の意義は不明瞭でありこれまで報告がありません。肥大型心筋症は若年突然死を来す疾患として知られており、これまで突然死の家族歴、原因不明の失神、著明な壁肥厚(≥30mm)、非持続性心室頻拍所見、運動中の異常血圧反応などがリスク因子として知られていますが本研究ではJ点上昇所見(J波)が同疾患の致死性不整脈イベントに関連するかどうかを検討しました。

要旨
 今回の研究では当院およびその関連施設で診療された肥大型心筋症338例を後ろ向きに検討しました。心電図下壁誘導、あるいは側壁誘導の連続2誘導以上で認められる0.1mV以上のJ点上昇をJ波陽性としました(Figure 1)。心イベント出現(突然死、心室細動検出、植え込み型除細動器の適切作動や持続性心室頻拍検出)をエンドポイントとしました。
平均観察期間4.9年の間に31名(9.2%)が心イベントを発症し、イベント発症群においてJ波を高頻度に認め(35.5% vs. 11.4%, P=0.001)、さらに下壁および側壁誘導両方に認めるJ波、ノッチ波形を伴うJ波、平坦ST部を伴うJ波を高頻度に認めました。

 

Figure 1

 

 コックスハザードモデルを用いてイベント発症予測を検討したところ、従来報告されているリスク因子による調整後もJ波は独立した予測因子であり、さらにカプランマイヤー法を用いた生存曲線ではJ波群でイベント発症率が有意に高く、さらにJ波を下壁および側壁誘導両方に認める群はJ波を下壁誘導もしくは側壁誘導いずれかにしか認めない群と比較してイベント発症率が高い傾向を示しました(Figure 2, 3)。HCMの心イベントを予測する従来のリスクモデルと従来のリスクモデルにJ波を加えた修正リスクモデルを作成し、net reclassification improvementおよびintegrated discrimination improvementを用いて比較したところ、修正リスクモデルはイベント予測能を有意に改善させました。

 

Figure 2
Figure 3

 

 結論として、J波はHCMの突然死および致死性不整脈発症を予測する独立したリスク因子であり、J波を従来のリスク因子に加えることでその予測能を改善させる可能性があります。わが国では心臓突然死のリスク因子を考慮して植え込み型除細動器移植の適応が決められていますが、従来のリスク因子にJ波を加えて考慮することが望ましいと考えられます。

今後の展望
 今回の研究では肥大型心筋症におけるJ波所見の将来的な致死性不整脈イベント予測の意義に関して示しました。肥大型心筋症はその病態的特性から様々な心電図変化を来しうるものとして知られています。J波もその出現機序が再分極異常に伴うものなのか、脱分極異常に伴うものなのか、その混合の結果であるのかは現時点では結論に至っておりません。またfragmented QRS所見という概念も存在しますがJ波と一部鑑別が困難な場合も見受けられます。その中で本研究の結果につながった予測される機序、これまでの研究との比較、またOverlapする心電図所見の鑑別法の提案などが本論文に記載されておりますので是非ご一読いただければ光栄です。
 肥大型心筋症は良性の経過をたどる例が多いですが、一部の症例は致死的不整脈による突然死を起こしうる可能性も有しております。致死的イベントを事前にいかに予測するか、より簡便により低侵襲的に予測しうるモダリティの構築および臨床応用が望まれます。
 この肥大型心筋症という疾患について、致死性不整脈の予測因子についてさらなる検討を行っていきたいと考えております。また肥大型心筋症の他疾患合併時の予後に与える影響に関しても多数例で検討していく所存です。

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