リウマチ・膠原病研究室

リウマチ・膠原病研究室

リウマチ・膠原病研究室

当研究室は関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、血管炎等の膠原病をはじめ、糖尿病性腎症やIgA腎症、ネフローゼ、腎不全などの治療、研究を行っています。これらは比較的症例数の少ない疾患ですが、当科では石川県はもとより北陸3県から難治症例、診断困難例の紹介を受けており、北陸では随一の症例数を経験することができます。近隣のリウマチ疾患主要施設との連携も強く、当研究室は特に膠原病において中核的な働きを担っています。重厚な指導医、豊富な入院症例を通して若手医師はリウマチ内科、腎臓内科、また総合内科をめざし充実した研修を送っています。

研究面においては、IgG4関連疾患においては日本有数の症例数を誇り、精力的に臨床研究を行っています。また、基礎研究においてはジュネーブ大学、筑波大学腎病理部など共同して活発な人材交流にも取り組んでいます。

リウマチ・膠原病研究室チーフ
川野 充弘
Mitsuhiro Kawano, M.D., Ph.D.

主な研究内容

  1. IgG4関連疾患
  2. 関節リウマチ
  3. シェーグレン症候群の臨床研究
  4. 脊椎関節炎
  5. 免疫グロブリン軽鎖による腎病原性の病態解析
  6. ウロモジュリン腎症(常染色体優性尿細管間質性腎疾患)

詳細な研究実績(論文)はこちらへ。

研究室の概要

1IgG4関連疾患

① IgG4関連疾患の多施設共同研究

IgG4関連疾患は、血清IgG4高値、病変組織へのIgG4陽性細胞浸潤、臓器の腫大・腫瘤形成、線維化およびTh2優位の免役反応を特徴とする疾患です。気管支喘息やアレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患をよく合併します。IgG4関連疾患の罹患臓器は、膵臓、涙腺、唾液腺、腎臓、肺、後腹膜、動脈周囲、胆管、肝臓など多岐にわたり、サルコイドーシスのように身体中のあらゆる臓器をおかします。私たちリウマチ・膠原病グループでは、2007年より全国レベルの研究会であるIgG4研究会を組織し、日本語、英語、中国語の教科書を出版しながら、IgG4関連疾患の疾患概念の普及に努めています。

腎臓はIgG4関連疾患における主要な標的臓器の一つです。私たちも参加した日本腎臓学会のワーキンググループでは、IgG4関連疾患に特異的な腎実質・腎盂病変を総称してIgG4関連腎臓病と定義しています。このIgG4関連腎臓病に関して、私たちは多施設共同研究を行い、多数の患者さんでの知見に基づいて本疾患に特徴的な臨床病理像やステロイド治療後の臨床経過を明らかにしてきました。今後、引き続いてステロイド維持投与における至適投与量や投与期間、またステロイド代替療法についても検討していきたいと考えています。

IgG4関連疾患の多施設共同研究

IgG4関連疾患は血管病変も比較的高頻度に認めることがわかっており、動脈外膜を中心とした動脈周囲炎が典型的病変です。この動脈周囲病変においては、病変部の血管が拡張して瘤化し、破裂する危険性が指摘されていました。私たちは、この問題についても多施設共同研究を行い、IgG4関連動脈周囲炎患者さんでは他臓器のIgG4関連疾患患者さんと同様の臨床像、良好なステロイド反応性を示すことを報告し、第9回日本シェーグレン症候群学会奨励賞を受賞しています。この血管病変については、診断基準が未だ作成されておらず、私たちは診断基準作成ワーキンググループにも参加して、診断の向上に向けて検討を重ねています。

② IgG4関連疾患モデルマウスの確立

Lat Y136F knock-in miceの膵臓および腎臓

IgG4関連疾患は、血清IgG4高値、病変組織へのIgG4陽性細胞浸潤、線維化およびTh2優位の免役反応を特徴とする疾患です。しかしながら、IgG4関連疾患の発症機序については未だ明らかとなっておりません。またIgG4関連疾患はステロイドに良く反応し、病変の改善を認めますが、ステロイド減量による再燃例を認めることや長期ステロイド投与による副作用が問題となっています。しかしながら現在のところ、ステロイド代替薬については確立されていません。IgG4関連疾患の病態の解明および新規治療薬の開発のためには、動物モデルが必要と考えられました。私たちは、T細胞活性化リンカー(Linker for activation of T cell;LAT)の136番目のチロシンをフェニルアラニンに変異したLat Y136F knock-in miceに着目しました。このマウスは、Th2優位の免役反応およびポリクローナルなリンパ増殖を自然発症します。また、マウスのIgG1(ヒトのIgG4に対応)高値も認め、ヒトのIgG4関連疾患と類似した特徴をしめします。このマウスは膵臓、腎臓、唾液腺、肺などへのIgG1陽性細胞浸潤、血清IgG1高値、血清Th2サイトカイン高値、ステロイド反応性等の特徴を有することから、ヒトのIgG4関連疾患のモデルとなり得ることがわかりました。

③ IgG4関連疾患におけるAPRILの役割に関する研究

IgG4関連疾患においては、病変局所へのIgG4陽性形質細胞浸潤を認めます。しかしながら、なぜIgG4陽性形質細胞が各臓器の病変に浸潤するのか、なぜ生存し続けることができるのかという点についてはよくわかっていません。私たちは、B細胞及び形質細胞の生存に関与する分子であるA proliferation-inducing ligand (APRIL)に着目しました。APRILはB細胞や形質細胞の生存シグナルとして働いています。したがって、IgG4関連疾患の病変においてもAPRILが重要な役割を担っていると推測しIgG4関連腎臓病患者の腎生検組織においてAPRILの発現を検討しました。その結果、IgG4関連腎臓病患者においてはシェーグレン症候群の間質性腎炎患者と比較して腎組織においてAPRIL産生細胞および可溶性APRILの発現が亢進していることが明らかとなりました。さらに、ステロイド治療前後の腎生検組織を比較すると、ステロイド治療後にAPRILの発現が低下していることが明らかとなりました。これらの結果から、APRILは少なくともIgG4関連腎臓病患者の腎組織においては、病変の形成に関与していると考えられます。この後、さらにIgG4関連疾患の他の臓器においても、同様の傾向を示すか検討して行きたいと考えています。

さらに私たちは、モデルマウスであるLat Y136F knock-in miceを用いて、IgG4関連疾患におけるAPRILの役割について検討しています。マウスのAPRIL阻止抗体を投与することにより、Lat Y136F knock-in miceの病変がどのように変化するかについて検討しています。こられの研究より、将来的にはAPRILがIgG4関連疾患の新規治療ターゲットとなりうるかについて検討していきたいと考えています。

2関節リウマチ
Curr Opin Rheumatol. 2014 Jan;26(1):101-7.
Curr Opin Rheumatol. 2014 Jan;26(1):101-7.

関節リウマチと環境要因

関節リウマチと関連する環境因子として注目されているものとして歯周病(原因菌:P.gingivalis)、喫煙、腸内細菌が挙げられます。私たちはこの内の腸内細菌に注目し、関節炎の発症及び進展における腸内細菌の役割について研究をすすめています。

関節リウマチ(RA:rheumatoid arthritis)は、関節滑膜を病変の首座とする原因不明の慢性炎症性疾患であり、全人口の約1%に発症し、関節痛、骨破壊のためADLや生命予後の悪化をきたします。RAの原因としてHLAなどの遺伝要因、喫煙やストレスなど環境要因、また微生物の影響などが考えられていますが、病態の解明は十分ではありません。近年腸内細菌叢により宿主の免疫系が形成され、細菌叢のバランスが崩れることで自己免疫疾患が引き起こされる可能性が指摘されています。

IL-1ra欠損マウスは生後8週頃より多発関節炎を自然発症し、20週にかけてRAに酷似するパンヌス形成、骨破壊を伴う関節炎をきたします。このマウスは細菌がいない環境では関節炎を発症しないことから (J Clin Invest118: 205-216, 2008)、本モデルにおける関節炎の発症には腸内細菌叢が関わっていることが示唆されています。私たちはIL-1ra欠損マウスにおいて主にマクロファージに発現するケモカインレセプターであるCCR2を欠損させると関節炎が増悪することを世界で初めて報告しました(Arthritis Rheum 63: 96-106, 2011)。私たちはIL-ra欠損マウス・IL-1ra-CCR2重複欠損マウスでの腸内細菌叢さらには腸管免疫機能を関節炎の発症・進展と対比検討することを通して、腸内細菌叢・腸管免疫のRAの発症および進展における役割を解明することを目指しています。さらに、これらの解明を通して、腸内細菌叢を標的としたRA治療法の可能性も検討しています。

3シェーグレン症候群の臨床研究

シェーグレン症候群は涙腺、唾液腺を特異的に障害する自己免疫性疾患である一方、その他の臓器病変も来す全身疾患です。私たちは1990年代より小唾液腺生検を合わせて500例以上施行しており、豊富な診療経験を有しています。乾燥症状の重症度、小唾液腺生検の結果、抗体プロファイルの違いなどが臓器病変および予後にどのような影響を与え得るか、1つでも多くの疑問に答えられるよう適切な研究デザインと統計手法を用いて解析中です。特に抗セントロメア抗体陽性シェーグレン症候群を本邦では初めて我々が報告し、同抗体陽性者は乾燥所見が強い傾向があることを明らかにしました。日本シェーグレン症候群学会においては、抗セントロメア抗体陽性シェーグレン症候群委員会を運営し、今後多施設共同の観察研究や本邦におけるシェーグレン症候群患者のコホートデータ構築を計画しています。国内ではシェーグレン症候群診療ガイドライン作成委員会に所属し、また医師主導多施設共同臨床試験に参加中です。国外では、スペインのRamos-Casalsが研究代表を務める”EULAR(ヨーロッパリウマチ学会) Sjögren Big Data Project”に本邦から唯一施設参加しました。

今後も自施設および多施設共同での臨床研究を通じて、より深くシェーグレン症候群患者の臨床像を捉え、質の高い診療に繋げられるよう研究・学会活動を続ける予定です。

4脊椎関節炎の臨床

脊椎関節炎は、脊椎のみならず臀部にある仙腸関節、四肢の関節などをおかす炎症性疾患です。「身体中あちこち痛くて受診したが、採血でもレントゲンでも異常なし」というのが私たちの日常診療でよく遭遇する患者さんの”ゲシュタルト”です。CRPなどの炎症反応はしばしば陰性であり、診断のポイントは、「あちこち」がどこか、を丁寧な病歴、身体所見で明らかにすることです。

私たちは日々の臨床において、多くの脊椎関節炎患者さんを診断し研究会の運営に携わっており、グループ内の医師で脊椎関節炎関連の新着論文を毎週共有し、議論しています。今後、このネットワークを生かして多施設共同研究への発展も目指しています。

5免疫グロブリン軽鎖による腎病原性の病態解析

M蛋白血症は、骨髄におけるモノクローナルな形質細胞の増殖によって、異常な免疫グロブリンが産生される病態です。過剰に産生された免疫グロブリンの成分である軽鎖や重鎖が様々な形態をとりながら腎組織に沈着することによって組織障害を起こしますが、その種類はALアミロイド―シス、クリオグロブリン腎症、Light chain proximal tubulopathy、crystal-storing histiocytosis (CSH)、軽鎖沈着症、Cast nephropathyなど非常に多彩です。

なかでもCSHは、モノクロナールな軽鎖が近位尿細管上皮細胞や間質組織球に取り込まれ、そこで結晶化することで組織障害が惹起される稀な病態ですが、私たちは多発性骨髄腫に合併した特殊なCSHの症例を経験しました。本症例の極めて特異な点である糸球体ポドサイト障害に注目し、CSHの新たな動物モデルを作成し、病態解明、さらには慢性腎臓病の新規治療へ応用することを目指しています。

6ウロモジュリン腎症(常染色体優性尿細管間質性腎疾患)

常染色体優性尿細管間質性腎疾患(ADTKD:Autosomal dominant tubule-interstitial kidney disease: diagnosis)は若年時から腎機能障害が出現し、典型的には中年期に末期腎不全のため血液浄化療法が必要となる遺伝性疾患です。原因遺伝子として、ウロモジュリン(UMOD)、HNF1B、レニン(REN)、ムチン1(MUC1)がこれまでに報告されており、最も頻度が高いと思われるのがUMOD遺伝子変異によるウロモジュリン腎症です。ウロモジュリン蛋白は腎遠位尿細管に特異的に発現し、近年、ウロモジュリンの遺伝子多型が腎障害や高血圧発症と関連する事が報告され、さらに注目を集めております。我々はADTKDの一家系から新規のウロモジュリン遺伝子変異を見出し、血清中ウロモジュリン蛋白濃度が有意に低い事を世界で初めて報告致しました(Hints to the diagnosis of Uromodulin kidney disease. CKJ 2015 in press)。

ランドマーク論文当グループの代表的な論文を紹介します

Mizusima I, et al. Arthritis Res Ther. 2014.Mizusima I, et al. Arthritis Res Ther. 2014.
Arthritis Res Ther

Mizushima I, Inoue D, Yamamoto M, Yamada K, Saeki T, Ubara Y, Matsui S, Masaki Y, Wada T, Kasashima S, Harada K, Takahashi H, Notohara K, Nakanuma Y, Umehara H, Yamagishi M, Kawano M. Clinical course after corticosteroid therapy in IgG4-related aortitis/periaortitis and periarteritis: a retrospective multicenter study. Arthritis Res Ther. 2014 Jul 23;16(4):R156. DOI

解説:IgG4関連疾患の血管病変(動脈周囲病変)は、病変部血管の瘤化・破裂の危険性が推測されていますが、治療反応性や経過は明らかにされていません。我々は多施設共同研究にて過去最多数の40症例を集め、動脈周囲病変は他臓器の病変と同様に良好なステロイド反応性を示すこと、治療前に軽度でも内腔拡張を認める症例では治療後に半数近くの症例で血管の拡張が認められることを明らかにしました。本疾患のステロイド治療における注意点を示した重要な研究として、本論文は第9回日本シェーグレン症候群学会奨励賞を受賞しました。

Kawano M, et al. Clin Exp Nephrol. 2011.Kawano M, et al. Clin Exp Nephrol. 2011.
Clin Exp Nephrol

Kawano M, Saeki T, Nakashima H, Nishi S, Yamaguchi Y, Hisano S, Yamanaka N, Inoue D, Yamamoto M, Takahashi H, Nomura H, Taguchi T, Umehara H, Makino H, Saito T. Proposal for diagnostic criteria for IgG4-related kidney disease. Clin Exp Nephrol. 2011 Oct;15(5):615-26. DOI

解説:当研究室リーダーの川野が日本腎臓学会腎病理診断標準化委員会のなかに設立されたIgG4関連腎臓病ワーキンググループの中心的メンバーの一人として日本より世界に発信したIgG4関連腎臓病の診断基準です。日本全国から集めた41例を解析し、診断に至った経緯や臨床的特徴を入念に調べた上で診断基準と診断アルゴリズムを作成しました。現在、Mayo clinicの診断基準と並んで広く世界で用いられています。

Fujii H, et al. Arthritis Rheum. 2011.Fujii H, et al. Arthritis Rheum. 2011.
Arthritis Rheum

Fujii H, Baba T, Ishida Y, Kondo T, Yamagishi M, Kawano M, Mukaida N. Ablation of the Ccr2 gene exacerbates polyarthritis in interleukin-1 receptor antagonist-deficient mice. Arthritis Rheum. 2011 Jan;63(1):96-106. DOI

解説:本研究は、関節炎を自然に発症するIL-1ra-/-マウスを用いて、関節炎の発症におけるサイトカイン、ケモカインの役割について分析・解明した基礎研究論文です。マクロファージの遊走にかかわる代表的なケモカインであるCCR2をノックアウトすることでケモカインの関節炎への治療応用を検討しました。結果はCCR2をノックアウトしたマウスではむしろ関節炎の増悪が認められたため、CCR2をノックアウトすると好中球を遊走するケモカインがむしろ増幅され、関節炎が増悪するというメカニズムが明らかとなりました。

Yamada K, et al. Clin Exp Immunol. 2008.Yamada K, et al. Clin Exp Immunol. 2008.
Clin Exp Immunol

Yamada K, Kawano M, Inoue R, Hamano R, Kakuchi Y, Fujii H, Matsumura M, Zen Y, Takahira M, Yachie A, Yamagishi M. Clonal relationship between infiltrating immunoglobulin G4 (IgG4)-positive plasma cells in lacrimal glands and circulating IgG4-positive lymphocytes in Mikulicz’s disease. Clin Exp Immunol. 2008 Jun;152(3):432-9. DOI

解説:IgG4関連疾患についての当研究室の最初の論文であり、発症機序について検討した論文です。IgG4関連疾患5例の涙腺および末梢血中のIgG4陽性細胞のクローナリティーを解析した結果、涙腺ではAID(activation induced cytidine deaminase)の発現が認められ、またIgG4陽性細胞の体細胞高頻度変異が確認されました。また、涙腺および末梢血中のIgG4陽性細胞の大多数はポリクローナルであることが明らかとなり、本研究によりIgG4陽性細胞が浸潤した組織においては、抗原刺激が起こっていることが明らかとなりました。IgG4関連疾患とアレルギー疾患の関連が注目されており、この関係を裏付ける重要な結果と言えます。

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