金沢大学臓器機能制御学教室では、臨床、教育を重んじる立場から、症例報告の執筆も積極的に指導、推奨しています。初期臨床研修医から関連病院の超ベテラン専門医まで、日頃の臨床で不思議に思ったことなどを、整理して記録に残せば情報として必ず臨床医学に還元されます。ここ最近の症例報告論文を紹介させて頂きます。
リウマチ膠原病内科
Araki D, Fujii H, Matsumura M, Yamagishi M, Yachie A, Kawano M
Etanercept-induced lupus accompanied by hemophagocytic syndrome
Internal Medicine 2011;50:1843-1848
初期臨床研修医でありました、荒木大佑先生の手によります、生物学的製剤により誘起されたループスに関する報告です。早期診断が大切であることを症例を通じて強く訴えています。後出の古田先生と同様、初期研修医とはいえ、立派な論文に仕上がっています。尚、荒木大佑先生は当科で初期研修終了後、既に取得した米国での臨床研修資格を生かすため、現在沖縄海軍病院での後期研修を始めています。来年には米国での臨床研修を開始するものと思います。当科ならではの臨床研修経過と、誇りを感じています。
Ogane, K., Kato, T., Mizushima, I., Kawano, M., Yamagishi, M.
A case of sarcoidosis developing as sarcoid myopathy concomitant with systemic sclerosis and review of the literature
Modern Rheumatology 2011 in press
石川県立中央病院リウマチ膠原病内科のエース級、大鐘先生によります、筋肉障害を伴うサルコイドーシス症例の報告です。
Kim, F., Yamada, K., Inoue, D., Nakajima, K., Mizushima, I., Kakuchi, Y., Fujii, H., Kawano, M.
IgG4-related tubulointerstitial nephritis and hepatic inflammatory pseudotumor without hypocomplementemia
Internal Medicine 2011;50:1239-1244
リウマチ膠原病内科には女性医師が多く在籍します。金先生はIgG4関連疾患への興味から、腎炎を伴う本症を詳細に記載しています。
Matsumura, M., Kawamura, R., Inoue, R., Yamada, K., Kawano, M., Yamagishi, M.
Concurrent presentation of cryptococcal meningoencephalitis and systemic lupus erythematosus.
Modern Rheumatology 2011; 21:305-308
循環器内科
Tada H, Tsubokawa T, Konno T, Hayashi K, Kawashiri MA, Yamagishi M.
Impact of Bilateral Internal Thoracic-to-Epigastric Artery Communications on Salvaging Total Lower Limb Ischemia
J Am Coll Cardiol 2011;58:654-654.
下肢動脈閉塞症例におけます、内胸動脈―浅腹壁動脈―腸骨動脈経由での側副血行路を見事に描出された画像所見です。それによりますと、両下肢動脈閉塞症例での側副血行が両内胸動脈から良好に供給されている様子を、3次元CT,両側内胸動脈造影で大変美しく描出されています。これほど、はっきりと画像所見としてこの経路の側副血行を示した報告は殆どないようです。重要なことは、このような症例で、冠動脈にも狭窄を認めた場合でも、内胸動脈はバイパス血管として使用できないことです。このようなメッセージを含む大変貴重な画像でしょう。尚、本論文は、金沢大学臓器機能制御学循環器内科と心肺総合外科との共同発表です。
Mori, M., Kawashiri, M.-a., Hayashi, T., Konno, T., Hayashi, K., Ino, H., Yoshimuta, T., , Yamagishi, M.
Cardiac papillary fibroelastoma originated from atrial side of mitral valve leaflet. Journal of Echocardiography, 2011 in press
当教室の心血管エコー検査室において、今やなくてはならない存在にまで成長した森 三佳先生によります、乳頭線維弾性腫瘍の画像論文です。 必ずしも珍しいものではありませんが、画像の美しさから、教育的意義として採用掲載されたものと思います。
Oe, K., Araki, T., Konno, T., Sakata, K., Hayashi, K.
, Ino, H., Yamagishi, M.
Rapid progression of coronary artery disease in a patient with retroperitoneal fibrosis. Journal of Cardiology Cases. 2011 in press
ご存知、我らが関連病院の症例報告のエースの一人、大江康太郎先生によります、後腹膜線維腫症例における冠動脈狭窄進行例の報告です。後腹膜線維症はIgG4関連疾患として、リウマチ膠原病の分野からも注目されており、それにおける動脈硬化の急激な進行みた症例で、炎症との因果関係が興味あるところです。
Mori, K., Nagata, M., Oe, K., Takabatake, S., Sakata, K., Uchiyama, K., Yamagishi, M.
Coronary arteriovenous fistulas complicated by complete atrioventricular block: A case report.
Journal of Cardiology Cases. 2011 in press
関連病院のひとつ、芳珠記念病院循環器内科の森清男副院長によります、完全房室ブロックを合併する冠動静脈婁症例です。森先生の臨床に対する熱い思いにはいつも頭がさがります。
Furuta, T., Tsubokawa, T., Takabatake, S., Ohtake, H., Watanabe, G., Yamagishi, M.
Pseudoaneurysmal formation in abdominal aorta associated with Escherichia coli infection 2011 Internal Medicine 50 (9), pp. 1025-1028
初期臨床研修医でありました、古田先生の手によります、感染性腹部大動脈瘤の報告です。早期診断が大切であることを症例を通じて強く訴えています。初期研修医とはいえ、立派な論文に仕上がっています。
大江康太郎、荒木 勉、今野哲雄、林 研至、井野秀一、山岸正和
発熱、意識障害を呈した胆嚢癌患者
J Cardiol Jpn Ed 2011;6:187-189
我らが症例報告の王子、大江康太郎先生によります、Trousseau症候群の報告です。画像診断の大切さが記載されています。
総合力のある専門医を目指すには、単に知識、技術の習得のみならず、これらを整理統合する能力も大切です。その一環として症例報告は大変大切です。これからも、症例報告は大事に育てて参ります。