第69回アメリカ糖尿病学会(ADA Scientific meeting)へ参加し、奮闘して来ました。
ADAは糖尿病の世界では最大級の学会で、毎年高いレベルの発表がなされることで注目を集めています。本年も去る6月5日から9日までニューオリンズで開催され、私、八木邦公を筆頭に、山秋直人先生、伊藤直子先生、森由紀子先生の4名で参加してきました。さすがに今年はインフルエンザの影響で日本人の参加や発表の辞退が多く、例年の“立錐の余地なし”という状況程ではなかったのですが、むしろその分空間的にもスケジュール的にも余裕がありました。
今回は研究室の演題として3題が採択され、ベイラー医科大学に留学中の中條大輔先生の演題を合わせて、4題の発表でした。私は、JAPAN-ACSスタディのサブ解析を発表しました。これは糖尿病患者の冠動脈リモデリングにはRAS系阻害剤、特にACEIが有効に作用するとの結果得たもので、先の日本糖尿病学会総会の発表で注目された演題でもあります。山秋直人先生はフィブラート薬剤のうち、Bezafibrateがアディポネクチン上昇作用が強いとの成績を示しました。伊藤直子先生はCETP欠損症例でのアディポネクチンとHDLの関係についてで、アディポネクチンがインスリン抵抗性改善を介してHDLを上昇させる効果はCETP程強くはないことを確認しています。中條先生は留学先の膵島移植免疫についての正常人での検討で、1型糖尿病において膵島破壊につながるとされるTリンパ球が実は正常人にも認められる事を示しました。
さて、本会の目玉は何と言っても6月8日に発表された、BARI-2D trial(The Bypass Angioplasty Revascularization Investigation (BARI) 2 Diabetes)でしょう。無症候性糖尿病で冠動脈造影の判断から、血管形成術が必要となった症例においては、内科治療、血管形成術でも生命予後や死亡率では差が付かなかったという発表で、血糖管理内容でも差が付かなかった事から糖尿病専門医が単なる血糖調節医であってはならない事や、冠動脈疾患治療における糖尿病専門医による心血管病変管理の比重が高まる事を示しています。
ここ数年ADAの方向性について“基礎に偏り過ぎている”との批判があったのですが、今年はバランスがよく臨床についてもこれからの方向性がはっきり示されている会になっていました。今回は朝5時から夕方6時まで学会に参加し、非常に有意義な時間を過ごせました。また、糖尿病専門医も“心血管専門医として進化”する必要があることを明確に示した学会でもありました。これは、筆者が糖尿病と関わり始めた時から、目指してきたもので、改めて意を強くした次第です。