2015年7月より内分泌・高血圧研究室と糖尿病研究室を「内分泌糖尿病研究室」として発展的に統合し、心血管合併症のリスクとしての内分泌糖尿病関連疾患についてより強力な研究を展開しております。原発性アルドステロン症、糖尿病の臨床、研究実績の充実を基礎に、エピジェネテイクスによる生命現象の包括的解明を目指しています。また医工連携による内分泌代謝疾患の新しい診断法の確立、ICTを用いた未来型医療の構築や先進的な疫学研究などでメデイカルイノベーションを推進しており、それら科学技術の成果が正しく社会に還元されるためのレギュラトリーサイエンスの振興を積極的に図ります。
内分泌糖尿病研究室チーフ
米田 隆
Takashi Yoneda, M.D., Ph.D.
主な研究内容
- 原発性アルドステロン症における革新的疫学研究、未来型診断および治療法の開発研究
- 糖尿病等の生活習慣病における未来型医療構築に関する研究
- 内分泌代謝疾患、高血圧症における病態解明のためのエピジェネティクス研究
- メディカルイノベーション、レギュラトリーサイエンスに関する研究
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研究室の概要
1原発性アルドステロン症における革新的疫学研究、未来型診断および治療法の開発研究
当研究室は原発性アルドステロン症の臨床、研究実績があり、国内外でオピニオンリーダーを務めています。原発性アルドステロン症の疫学的調査に始まり、診断面では、治療法を決める上で必要な副腎静脈サンプリングの成功率を飛躍的に上昇させるデバイス(迅速コルチゾール測定キット)を開発し、その臨床的価値はすでに認められ、診療ガイドラインにも取り上げられる予定となっています。また、その開発技術は国内、米国での特許を取得しており、国内外の薬事承認に向けた活動も行っているところです。治療面でも、東北大学との共同で原発性アルドステロン症の副腎腫瘍に対するアブレーション治療の開発にも進めています。原発性アルドステロン症に関しては、基礎から臨床まで一貫して研究開発を行う国のファンディング機関であるAMED研究のなかでも重要な役割を担っています。
2糖尿病等の生活習慣病における未来型医療構築に関する研究
厚生労働省の国民健康栄養調査によれば、糖尿病と診断されても医療機関を受診しない人が、糖尿病全体の約35%、J-DOIT2研究によれば、糖尿病通院患者の通院中断率は年8%程度とされています。近年の糖尿病治療薬はめざましく進歩していますが、適切な糖尿病治療はそれだけで達成できるものではありません。当研究室では通院中断や放置といった問題、各患者への療養指導を糖尿病診療での重要な課題と考えています。通院中断を防ぐ方法の一つとして、当研究室では平成 21 年より携帯電話を用いた糖尿病の在宅医療サービスを構築し、その有効性を検証しました(総務省「ふるさと携帯事業」)。通院中断の原因として「多忙による受診困難」が挙げられており、携帯電話などICT(情報通信技術)の利用が状況の改善につながる可能性が期待されます。今後はICTを用いたシステムをさらに発展させることで、糖尿病等の生活習慣病における未来型医療を構築する研究を進めていきます。
3内分泌代謝疾患、高血圧症における病態解明のためのエピジェネティクス研究
基礎的な研究では従来の遺伝子解析などの分子遺伝学的研究に加え、エピジェネティクスに関する研究に取り組み、生命現象および内分泌代謝、高血圧疾患の病態解明に取り組んでいます。エピジェネティクスとはDNAの塩基配列の変化を伴わない遺伝子の制御機構を解析する学問です。DNAの塩基配列をもとにタンパク質が合成され、形質発現が起こるセントラルドグマだけでは説明のつかない生命現象が生体には多く見られることから、多因子疾患のリスク解明にむけて盛んに研究されています。私たちは高血圧を引き起こす様々な病態とエピジェネティクスに関して研究を続けています。
4メディカルイノベーション、レギュラトリーサイエンスに関する研究
最近の医学研究分野では、論文データの改ざん、ねつ造が次々と明らかになっています。一方で、我が国から発表された研究論文数は基礎研究論文が世界第4位であるのに対して臨床研究論文は世界第23位に甘んじています(2008年~2012年の統計データ)。医学研究論文の究極の目的は、人類にとってよりよい医療を確立し、これまで治療が難しかった疾患への治療法を開発することです。近年の我が国の政策も世界に向けて日本の健康・医療関連産業を展開していくことを推進しています。これらの背景から、我々は医学研究においてはメディカルイノベーションを目指し、医学研究が社会に橋渡しされるべくレギュラトリーサイエンスを積極的に取り入れています。具体的には、マーケティング、デザイン、イノベーションから始まり、特許申請の取得、探索的な臨床研究の方法論(統計解析からプロトコル作成)を構築し、研究倫理指針、非臨床試験、臨床試験など薬事承認とそれに関する法規的規制などの多岐の面から医学研究を計画し、その成果を産学官連携で社会へ還元することに取り組んでいます。
米田隆、米谷充弘が未来医療研究人材養成拠点事業で行っている活動が日本経済新聞(2015年5月14日)にて紹介されました。
医薬品・医療機器開発に興味のある方は是非メディカルイノベーションのホームページをご覧ください。
特許など
井上公太郎、米田隆、高村禅
2015年1月6日 米国特許取得
“Method for Evaluation of Quality of Blood Sample”, Patent No.;8927219
井上公太郎、米田隆、高村禅
2014年8月8日 日本国特許取得
「血液試料の品質評価法」特許第5590651号
ランドマーク論文当グループの代表的な論文を紹介します
Yoneda T, Karashima S, Kometani M, Usukura M, Demura M, Sanada J, Minami T, Koda W, Gabata T, Matsui O, Idegami K, Takamura Y, Tamiya E, Masashi O, Nakai M, Mori S, Terayama N, Matsuda Y, Kamemura K, Fujii S, Seta T, Sawamura T, Rika O, Takeda Y, Hayashi K, Yamagishi M, Takeda Y. Impact of new quick gold nanoparticle-based cortisol assay during adrenal vein sampling for primary aldosteronism. J Clin Endocrinol Metab. 2016. [Epub ahead of print]
解説:原発性アルドステロン症は心血管合併症の頻度が高く、早期診断に基づく早期治療が望まれる2次性高血圧症ですが、手術で完治しうる疾患です。その診断には副腎静脈サンプリング(adrenal venous sampling: AVS)が必要ですが、手技が難しく診断可能な検体摂取成功率は低く、一般病院では30-50%程度と推定されています。AVSの成功の判断には副腎静脈中のコルチゾール測定が用いられます。AVSの術中にコルチゾール測定を行うことがAVSの成功率を上昇させるとの報告はこれまでもありましたが、コルチゾール測定には時間と臨床検査技師の手間暇がかかり、医療経済的にも現実的でないとされていました。この問題を解決する方法として、我々は医工連携のもとナノテクノロジーを用い、簡便かつ迅速にできるコルチゾール測定法を開発しました。日本および米国で特許を取得し、その有用性を世界初の多施設ランダム化比較試験(RCT)を行い、一般病院でも成功率を90%まで上昇させ、その有用性を証明しました。国際的な原発性アルドステロン症のオピニオンリーダーたちからもすでに高く評価され、国際的共同研究にむけて着手すると同時に国内外での薬事承認にむけて活動中です。
Wang F, Demura M, Cheng Y, Zhu A, Karashima S, Yoneda T, Demura Y, Maeda Y, Namiki M, Ono K, Nakamura Y, Sasano H, Akagi T, Yamagishi M, Saijoh K, Takeda Y. Dynamic CCAAT/enhancer binding protein-associated changes of DNA methylation in the angiotensinogen gene.
Hypertension. 2014 Feb;63(2):281-8.
解説:エピジェネティクス機構の1つであるDNAメチル化は遺伝子発現に重要な役割を果たしています。この研究では、レニン‐アンジオテンシン‐アルドステロン系の主要基質であり、高血圧の発症に大きく関与しているアンジオテンシノーゲンに着目しています。アンジオテンシノーゲン遺伝子の発現が同遺伝子のプロモーター領域のDNAメチル化により調節されていることを明らかにし、さらに高食塩食、アルドステロンやIL-6といった刺激因子にさらされることにより同部位のDNAメチル化が変化することを明らかにしました。この成果は高食塩食やアルドステロン過剰状態といった環境要因がアンジオテンシノーゲン遺伝子に対してエピジェネティクに作用し、ヒトにおける血圧上昇に関与している可能性を示唆するもので、大変興味深いものです。
Yoneda T, Demura M, Takata H, Kometani M, Karashima S, Yamagishi M, Takeda Y. Unilateral primary aldosteronism with spontaneous remission after long-term spironolactone therapy.
J Clin Endocrinol Metab. 2012 Apr;97(4):1109-13.
解説:研究室チーフの米田隆による世界初のアルドステロン産生腺腫(APA:aldosterone producing adenoma)の寛解現象の症例報告です。アルドステロン症の片側性病変の治療法において、患側副腎の摘出が第一選択肢として行われます。この症例では、長期間のスピロノラクトン内服投与がミネラロコルチコイド受容体のブロックを介し血圧の管理し臓器障害を改善させる以外に、アルドステロン合成自体を減少させる可能性を示しました。侵襲的な手術治療ではなく、薬物治療によって治療可能なAPAが存在することは、今後の疾患の治療方針を大きく変える可能性がありインパクトの大きい報告です。
Oka R, Kobayashi J, Yagi K, Tanii H, Miyamoto S, Asano A, Hagishita T, Mori M, Moriuchi T, Kobayashi M, Katsuda S, Kawashiri MA, Nohara A, Takeda Y, Mabuchi H, Yamagishi M. Reassessment of the cutoff values of waist circumference and visceral fat area for identifying Japanese subjects at risk for the metabolic syndrome.
Diabetes Res Clin Pract. 2008 Mar;79(3):474-81.
解説:腹部肥満を診断するための腹囲基準は民族ごとに異なる値が設けられていますが、日本人では、女性(90㎝)の方が男性(85㎝)より大きく設定されていることに国内外から疑問が持たれていました。そこで1870名の中年男女を対象に日本人の腹囲基準値を臨床疫学手法で再計算した研究です。論文はアメリカ心臓協会(AHA)を中心とした6つの欧米学会合同の勧告(Circulation. 2009 Oct 20;120(16):1640-5) 、及び2013年の国際動脈硬化学会のposition paperとして発表された脂質異常管理指針 (Atherosclerosis. 2014 Feb;232(2):410-3.) に引用され、本邦を代表する腹部肥満に関するエビデンスと認められたといえます。著者はこの論文発表後も、関連病院での症例を対象に、大学研究者と共同しながら腹部肥満と糖尿病発症に関する研究を継続し、14報の原著論文を発表しています。