Protein-Truncating Variants at the Cholesteryl Ester Transfer Protein Gene and Risk for Coronary Heart Disease
Nomura A, Won HH, Khera AV, Takeuchi F, Ito K, McCarthy S, Tada H, Kawashiri MA, Inazu A, Yamagishi M, Kathiresan S et al.
Circ Res. 2017 Jun 23;121(1):81-88.
Impact Factor (2016): 13.96
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Abstract
RATIONALE: Therapies that inhibit CETP (cholesteryl ester transfer protein) have failed to demonstrate a reduction in risk for coronary heart disease (CHD). Human DNA sequence variants that truncate the CETP gene may provide insight into the efficacy of CETP inhibition.
OBJECTIVE: To test whether protein-truncating variants (PTVs) at the CETP gene were associated with plasma lipid levels and CHD.
METHODS AND RESULTS: We sequenced the exons of the CETP gene in 58 469 participants from 12 case-control studies (18 817 CHD cases, 39 652 CHD-free controls). We defined PTV as those that lead to a premature stop, disrupt canonical splice sites, or lead to insertions/deletions that shift frame. We also genotyped 1 Japanese-specific PTV in 27561 participants from 3 case-control studies (14 286 CHD cases, 13 275 CHD-free controls). We tested association of CETP PTV carrier status with both plasma lipids and CHD. Among 58 469 participants with CETP gene-sequencing data available, average age was 51.5 years and 43% were women; 1 in 975 participants carried a PTV at the CETP gene. Compared with noncarriers, carriers of PTV at CETP had higher high-density lipoprotein cholesterol (effect size, 22.6 mg/dL; 95% confidence interval, 18-27; P<1.0×10-4), lower low-density lipoprotein cholesterol (-12.2 mg/dL; 95% confidence interval, -23 to -0.98; P=0.033), and lower triglycerides (-6.3%; 95% confidence interval, -12 to -0.22; P=0.043). CETP PTV carrier status was associated with reduced risk for CHD (summary odds ratio, 0.70; 95% confidence interval, 0.54-0.90; P=5.1×10-3).
CONCLUSIONS: Compared with noncarriers, carriers of PTV at CETP displayed higher high-density lipoprotein cholesterol, lower low-density lipoprotein cholesterol, lower triglycerides, and lower risk for CHD.
本論文の背景:
“高HDLコレステロールは冠動脈疾患に保護的に働く”との仮説をもとに、これまでHDLコレステロールを著明に上昇させる4種類のコレステリルエステル転送蛋白(CETP)阻害薬が開発されました。しかし現在までのところ、4種類のうち3種類までもが冠動脈疾患に対する効果を示すことができていません。
ある遺伝子における蛋白切断型変異の保有の有無と表現系の違いは、その遺伝子および産生物(蛋白質など)をターゲットとする薬剤の効果を予測しうることが示されています。PCSK9遺伝子やNPC1L1遺伝子での検討では、同遺伝子の蛋白切断型変異は血清LDLコレステロール値を下げ、冠動脈疾患の発症オッズを減らし、かつ同遺伝子の阻害薬は第III相試験で実際に冠動脈イベントを低下させました。しかし、これまでCETP遺伝子において同様の検討は行われていませんでした。
今回、筆者らはCETP遺伝子における蛋白切断型変異の有無が、冠動脈疾患の発症に関係するかどうかを、大規模なゲノムコホートを用いて検討しました。
要旨:
今回の研究では、ゲノムコホートとして58,469名の全エクソームシークエンスコホート(MIGen, DiscovEHR, TAICHI)、および27,561名の日本人ジェノタイピングコホート(BioBank Japan, CAGE-CAD)を用いました。CETP遺伝子における蛋白切断型変異を有するキャリアは、ノンキャリアと比較してHDLコレステロール値が高く(+22.6 mg/dL)、LDLコレステロール値が低く(-12.2 mg/dL)、トリグリセライド値が低値でした(-6.3%)。また、蛋白切断型変異キャリアは、ノンキャリアより冠動脈疾患発症オッズも有意に下げることが示されました(-30%、Figure 1) 。
さらに、蛋白切断型変異がLDLコレステロールを低下させることが示されている遺伝子をリファレンスとして、 CETP遺伝子の蛋白切断変異によるLDLコレステロールと冠動脈イベントへの効果量を比較したところ、今回示された冠動脈イベントオッズの低下は、CETP遺伝子の蛋白切断変異によるLDLコレステロール値の低下で説明されうることが示唆されました(Figure 2)。
今後の展望:
大規模ゲノムコホートを用いた検討では、CETP遺伝子の蛋白切断変異キャリアは、ノンキャリアと比較して有意に冠動脈イベントリスクが低いことが示されました。なお、ゲノムコホートを用いた検討と実際の大規模試験の結果がなぜ乖離したかについては、本論文のほうで詳しく考察しておりますので、ぜひご一読いただけますと幸いです。
今回の研究で用いたCETP遺伝子の蛋白切断変異のひとつ(IVS14+1G>A)は、以前より当講座の稲津教授が詳細に研究・検討をされておりました。そのため、この変異が血漿脂質に対する効果量が大きく、また世界の中でも日本人の変異保有率が特別高いということが既にわかっていたため、今回のような研究デザインを想起することが可能でした。今後は、今回の研究デザインと同様、日本あるいは東南アジア人種に特異的かつ疾患保護的にはたらく遺伝子変異に注目し、その臨床的効果の証明および研究結果のゲノム創薬への応用を目指していきたいと思います。